屋敷妙子氏インタビュー

・・・タイトルは「記憶を紡ぐ」。

日常生活をしている中で感じていることとかを、日記のような感じで描いているのですが、基本的に日記は人に見せるものではないので、私小説みたいな形でいろいろな方に見せられればと思っています。ただ誤解をしてほしくないのですが、私小説的に自分の記憶を描くといっても、それだけでは物足りないし、それをもっと深く深く掘り下げれば、人間に共通する普遍的な部分が見えてくるような気がするのです。それを描きたいと思っています。

・・・人間に共通する普遍的な部分ですか。

人間の根源といいますか。記憶の中の原石みたいなもの。人は皆それを心のなかに持っていると思うのです。それを形として表現したい。ただ、そうは言っても感受性がそれぞれ違うので、お互いの共通了解の部分は、ほんの少しかもしれません。でもそこから、普遍的な本質や美が生まれるのであれば、それを探っていきたいですね。

・・・その具現化が巨大化した頭に象徴される少年や少女達ということですね。

原石というのは加工する前の宝石みたいなものですから、とてもピュアなものだと思うのです。実はこの頭の大きさにはかなりこだわりがあるんです。デッサンやクロッキーを何枚もして、段々疲れてくると逆にいい形が生まれてくるんですよ。「これだな」と思う形は、必ずいつも頭が大きい。なぜ大きいのかを言葉にするのは難しく、それがこれからの課題だとは思っています。

・・・リリシズムあふれる幻想的な世界の中に、彼等の姿は存在のリアリティを感じさせてくれる。ところで油彩を選ばれたのはなぜでしょうか。

私はアメリカの美術大学で学びました。そこでセラミックや版画、水彩などいろいろな手法に挑戦してみたんですが、授業の後期で油彩を描いてみましたら、私の言う事を聞かなかったといいますか。自分の意思どおりには描くことができなかったんです。なぜこう描けないのだろうと考えているうちに、段々とのめり込んでしまって・・・。ただアメリカの大学は、オリジナリティーをとても大切にするので、教えるというよりも、自分で見つけるという感じでした。当時はあまり英語もできませんでしたし、日本人の悪い癖で、先生に教えてもらうという意識がありましたので、いろいろ質問をしてしまって、手法は教えてもらったんですが、イメージはその人独自のものだから、「自分を信じなさい。自分の心に聞きなさい」と言われました。その言葉にすごい衝撃を受けて・・・。
でもその言葉は私の糧になり、自分を信じて描くことで、自分自身を乗り越えることができたように思います。とても力になりました。

・・・作品はその人の世界観なわけですから、誰か他の人がその人になることはできないし、その独自の世界を表現するということはとても大切なことだと思います。これからの展開はどのように考えていらっしゃいますか。

今のところ個展は2年に1回なのですが、できれば頑張って毎年開きたいと思います。これからも自分の根幹から表出する記憶の断片を紡ぎ合わせて、そこから何か産まれてくるか、それが自分が今1番みたいものなのかもしれないと思っています。

〜7月1日(土)まで。

(c)YASHIKI TAEKO